12月 ① はやくここにきて
アイラインの引き方も知らない頃、はじめて人にはだかを見せた。
ファーストキスの1週間後。
お気に入りの、オリオン座が金の糸で刺繍してあるブラジャーをつけていた。
乱暴に外されて、なんだか悲しかった。
15個も年上の男の人が、「ひとりでしてるとこを見せて」というので、大きな鏡の前で服を脱いだ。
そこはほんとうなら髪を切る場所で、何人もの女の子がその椅子に座って、綺麗になってきた場所で、そんなところで、私は自分の中のいちばん汚いところを見せていた。
「なんにも知らないふりして生きていけばいい」ってその人は言った。
無いものにしたかった。
はじめてホテルに行った日のことも、はじめて男の人とタクシーに乗った日も、中野ブロードウェイも、渋谷駅も、池袋北口で待ち合わせもぜんぶ。
「はじめてなんです」って言うたび、心が削れた。
無いものになんてならなかった。ちゃんとずっといつだって私の中にあった。
嘘なんてつかなければよかった。
まだ間に合うかなあ。
この景色を、あの人に見せたいなあって思った。