7月 ① 見た目とか体裁とかどうでもいいっていって抱きしめてよ
10センチのヒールを履いた。
「私、身長低いのコンプレックスなんです」って言って、ぺたんこ靴履いてる身長145センチの女の子にムカついたから。
いつだって私がいちばんがよくて、でもそのためにはいろんな努力が必要だった。
そんな器じゃないけど、私だって誰かに好かれたいと思った。
出会ったなかでいちばん綺麗な女の子に「最近可愛くなった」って言われて、嬉しかった。
大きい鏡の前に立って、好きな人を呼んだ。158センチになった私と並んでも、彼は頭1.5個分以上大きい。
「私、店長のこと背低いって思ったことないです」
ありがとって言われた。ほんとに思っただけだけどな。
「焦らなくていい」って言われると、焦らなきゃいけなかったのかと気がつく。この時期に内定ゼロの女。
でも、私、ここで日記を書き始めたとき、まだ高校生だったんです。
体の成長と心の成長が伴っていないから、ちぐはぐで、大人になってくれって言われたらほんとうにしんどいよ。
5月 ② 白いポルシェを買ってあげる
約束じゃなくて誓いのようだった。
言葉にしたことは、信じつづけたことは、いつだって叶ってきた。
「果たせたら死んでもいい気がする」と言ったら、「それならいらない」と返された。
「私にはなにもないから」と泣いたら、「それは俺に対して失礼だよ」と諭された。
いつだって好きな人を神様のように想ってしまう。
「私、あなたのこと好きなんです」
「知ってるよ。好きじゃない人に車買ってあげるなんて言わないでしょ」
そうだね。
お前とはずっと腐れ縁な気がするって言ってくれて、嬉しかったから。
その言葉を本物にしたいの。
5月 ① overture
ビバラポップ!というフェスに行った。
今の私に必要なエネルギーみたいなものが詰まった空間だった。
アイドルを見てるひとの眼差しが大好きで、笑ってしまった。
普段は悔しかったり悲しかったり威張ったりいじけたり、色々、ほんとに色々あると思うけど、あの空間ではみんなおんなじような顔をしていて。
あ、良いなぁって思った。
いつか私もたった一人でいいから、こんな目で見つめられたい。
私も返すから。
3月 ① 天使になっちゃった
3月もそろそろ終わり。
就活解禁って言われてもピンとこなくて、ぼちぼち説明会に行ったりはしているけれど。
私はやっぱり接客が好きだから、昼と夜掛け持ちでするのも良いかなと思っている。私は欲張りなんだ。
そして、誕生日があって、21歳になった。
今年は日曜日だった。
好きな人が、お家にごはんを届けてくれた。嬉しかった。
休日だからタンクトップの上にパーカーを羽織っただけの服装で、やけにセクシーに見えて、どきどきした。
最近は街でも彼の香りを探してしまう。
「お前とはずっと腐れ縁な気がするわ」
見ていてくれるなら、10年先でも綺麗でいられるように努力をするよ。
2月 ① rope magic
スズキレイジさんという方に写真を撮っていただいた。
レイジさんは、緊縛写真作家。縛られた女の子の写真を撮る人。
もうすぐ21歳になるから、その前に「今の私」を残したかった。折角だから綺麗な写真が欲しいと思った。
縛られるのは初めてだった。
ずっとずっととっておいてた。
「緊張してる?」と聞きながら肩をさすってくれて、「少し」と答えた。
腕を後ろにやって、あ、これよく見るやつだなーと思った。縄が身体に巻きつく感覚を100%覚えておきたいのに、別のことを考えてしまう。
息を吸うと、縄がぎゅっとなって苦しい。でもそれが気持ち良くて、呼吸が速くなる。
シャッターの音がする。写真を撮られるのは苦手だったから、心配していたけれど、その必要はなかった。身をまかせるだけ。
私は、気持ちいいとき声をあげて笑ってしまう。あぁ〜、気持ちいなあ〜って、どっかの漫画で見た快楽殺人者みたいに。
だから、たくさん笑った。
気持ち良すぎて記憶が飛んだ。
縄が解かれて、「気持ち良すぎる」と言ったら、「まだ半分だよ」と言われた。時計を見たら、本当にまだ半分だった。
少し休憩して、2回目の縄。
素っ裸。
でも、それよりも、縛られていることの方が全部見られてる気になる。
今度は腕を上げて縛ってもらう。
また記憶が飛ぶ。
気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい。
怖くなかった。
レイジさんは、私を世界に入れてくれる。他の人に縛られたことがないから比較はできないけれど、優しい縄。
「また記憶が飛びました」
「どこから記憶ない?」
ほんとは、ここからかなあってとこがあったけど、恥ずかしくてはぐらかした。
お水を飲みながら、撮ってもらった写真を見る。自分で自分が可愛いなと思えた。身体に残った縄の跡も愛おしい。
帰り際、抱きしめてくれて、とても嬉しかった。
ふわふわとした足取りで駅まで戻る。途中に鏡があったから、笑ってみた。「私、今日すごいことしてきたんだよ!」って心の中で言う。
駅のホームのベンチで、脚の写真を撮った。薄いグレーのストッキングの下から、綺麗な線が浮かんでいる。
それから数日、毎日楽しみにしながら学校に通った。写真は大体1週間後くらいに出来上がるって言われていたから。
ぴったり1週間後に送られてきた写真を恐る恐る見る。
可愛い。あ、この写真はまだ記憶がある、、、。可愛い。これも綺麗。
それは自分じゃないみたいなのに、確かに私で。
そっか、自分ってこんな顔をしているのね、と。
好きな人にも見せた。
「見ていいの?」って聞くから「早く見て!」と急かした。
「肌が真っ白で縄がよく映えてる。綺麗」
褒められると途端に恥ずかしくなる私は、彼の顔をしばらく見られなかった。
私はあと少しでまた一つ歳をとる。
20歳になって、本当に色々な人に出会って、少しは大人になれた気がしている。
気分は毎日変わるし、泣いたり怒ったりする日もあるけれど、前を向いていこうと思う。
1月 ② 太陽のなかで愛されたら
変わろうと思って変われるなら、もうとっくに私は想像のむこうへ行けているはずなのだった。
また感情がぐちゃぐちゃになって、好きな人にあたってしまった。
やさしくやさしくしたいのに、こんなにやさしくやさしくしてくれるのに。
休めって言われたけど、休みたくないって言った。今の、私の、逃げる場所だったから。
「結局逃げてるんです」
「そうだなあ」
ぜんぶ分かっていて、私の方を見てくれるのだった。
俺は見捨てないよ、見捨てたことなんかない、気まずいと思う必要はなんにもない、と言ってくれた。
きみの元気がないと俺もテンション下がるから、頼りにしてるせいでそうなるから、元気でいて、と言われた。
どんな地獄を見てきた?
どれだけ人を傷つけたり、傷つけられたりした?
私はもっと正直な人間になって、あなたと向き合いたいです。
1月 ① I will say goodbye to you
1月も半分過ぎた。
冬休みは1週間くらい実家に帰れて嬉しかった。お母さんもお父さんもお兄ちゃんも妹も、ちゃんと生きていた。
チーズタッカルビをみんなで食べた。お家で。家族5人で食卓を囲むなんてどれくらいぶりだろう。両親の仲があまり良くないから、すごく珍しいこと。
2年ぶりくらいに、高校時代の友人とも会えた。社会人の友人が多いから、素直にすごいなと思う。私は社会にちゃんと出られるだろうか。頑張りたいけど。
初対面の人に、自分の夢を話した。「明確で良いね」と言ってくれて、嬉しかった。明確なだけ。それだけ。
でも、私は好きなことしか、興味のあることしか、ちゃんとできないと思うから。それだけで、生きていこうと思った。多くの人とちがっても。