博物館

ファーストキスは17歳。

7月 ① 見た目とか体裁とかどうでもいいっていって抱きしめてよ

10センチのヒールを履いた。

「私、身長低いのコンプレックスなんです」って言って、ぺたんこ靴履いてる身長145センチの女の子にムカついたから。

いつだって私がいちばんがよくて、でもそのためにはいろんな努力が必要だった。

そんな器じゃないけど、私だって誰かに好かれたいと思った。

出会ったなかでいちばん綺麗な女の子に「最近可愛くなった」って言われて、嬉しかった。

大きい鏡の前に立って、好きな人を呼んだ。158センチになった私と並んでも、彼は頭1.5個分以上大きい。

「私、店長のこと背低いって思ったことないです」

ありがとって言われた。ほんとに思っただけだけどな。

 

「焦らなくていい」って言われると、焦らなきゃいけなかったのかと気がつく。この時期に内定ゼロの女。

でも、私、ここで日記を書き始めたとき、まだ高校生だったんです。

体の成長と心の成長が伴っていないから、ちぐはぐで、大人になってくれって言われたらほんとうにしんどいよ。

 

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5月 ② 白いポルシェを買ってあげる

約束じゃなくて誓いのようだった。

言葉にしたことは、信じつづけたことは、いつだって叶ってきた。

 

「果たせたら死んでもいい気がする」と言ったら、「それならいらない」と返された。

「私にはなにもないから」と泣いたら、「それは俺に対して失礼だよ」と諭された。

 

いつだって好きな人を神様のように想ってしまう。

 

「私、あなたのこと好きなんです」

「知ってるよ。好きじゃない人に車買ってあげるなんて言わないでしょ」

 

そうだね。

お前とはずっと腐れ縁な気がするって言ってくれて、嬉しかったから。

その言葉を本物にしたいの。

 

 

 

 

5月 ① overture

ビバラポップ!というフェスに行った。

今の私に必要なエネルギーみたいなものが詰まった空間だった。

 

アイドルを見てるひとの眼差しが大好きで、笑ってしまった。

普段は悔しかったり悲しかったり威張ったりいじけたり、色々、ほんとに色々あると思うけど、あの空間ではみんなおんなじような顔をしていて。

あ、良いなぁって思った。

 

いつか私もたった一人でいいから、こんな目で見つめられたい。

私も返すから。

 

 

 

3月 ① 天使になっちゃった

3月もそろそろ終わり。

 

就活解禁って言われてもピンとこなくて、ぼちぼち説明会に行ったりはしているけれど。

私はやっぱり接客が好きだから、昼と夜掛け持ちでするのも良いかなと思っている。私は欲張りなんだ。

 

そして、誕生日があって、21歳になった。

今年は日曜日だった。

好きな人が、お家にごはんを届けてくれた。嬉しかった。

休日だからタンクトップの上にパーカーを羽織っただけの服装で、やけにセクシーに見えて、どきどきした。

最近は街でも彼の香りを探してしまう。

 

「お前とはずっと腐れ縁な気がするわ」

見ていてくれるなら、10年先でも綺麗でいられるように努力をするよ。

 

 

 

 

2月 ① rope magic

スズキレイジさんという方に写真を撮っていただいた。

レイジさんは、緊縛写真作家。縛られた女の子の写真を撮る人。

 

もうすぐ21歳になるから、その前に「今の私」を残したかった。折角だから綺麗な写真が欲しいと思った。

 

縛られるのは初めてだった。

ずっとずっととっておいてた。

 

「緊張してる?」と聞きながら肩をさすってくれて、「少し」と答えた。

腕を後ろにやって、あ、これよく見るやつだなーと思った。縄が身体に巻きつく感覚を100%覚えておきたいのに、別のことを考えてしまう。

息を吸うと、縄がぎゅっとなって苦しい。でもそれが気持ち良くて、呼吸が速くなる。

シャッターの音がする。写真を撮られるのは苦手だったから、心配していたけれど、その必要はなかった。身をまかせるだけ。

 

私は、気持ちいいとき声をあげて笑ってしまう。あぁ〜、気持ちいなあ〜って、どっかの漫画で見た快楽殺人者みたいに。

だから、たくさん笑った。

気持ち良すぎて記憶が飛んだ。

縄が解かれて、「気持ち良すぎる」と言ったら、「まだ半分だよ」と言われた。時計を見たら、本当にまだ半分だった。

 

少し休憩して、2回目の縄。

素っ裸。

でも、それよりも、縛られていることの方が全部見られてる気になる。

今度は腕を上げて縛ってもらう。

また記憶が飛ぶ。

気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい。

怖くなかった。

レイジさんは、私を世界に入れてくれる。他の人に縛られたことがないから比較はできないけれど、優しい縄。

 

「また記憶が飛びました」

「どこから記憶ない?」

 

ほんとは、ここからかなあってとこがあったけど、恥ずかしくてはぐらかした。

 

お水を飲みながら、撮ってもらった写真を見る。自分で自分が可愛いなと思えた。身体に残った縄の跡も愛おしい。

 

帰り際、抱きしめてくれて、とても嬉しかった。

ふわふわとした足取りで駅まで戻る。途中に鏡があったから、笑ってみた。「私、今日すごいことしてきたんだよ!」って心の中で言う。

駅のホームのベンチで、脚の写真を撮った。薄いグレーのストッキングの下から、綺麗な線が浮かんでいる。

 

それから数日、毎日楽しみにしながら学校に通った。写真は大体1週間後くらいに出来上がるって言われていたから。

 

ぴったり1週間後に送られてきた写真を恐る恐る見る。

可愛い。あ、この写真はまだ記憶がある、、、。可愛い。これも綺麗。

それは自分じゃないみたいなのに、確かに私で。

そっか、自分ってこんな顔をしているのね、と。

 

好きな人にも見せた。

「見ていいの?」って聞くから「早く見て!」と急かした。

「肌が真っ白で縄がよく映えてる。綺麗」

褒められると途端に恥ずかしくなる私は、彼の顔をしばらく見られなかった。

 

 私はあと少しでまた一つ歳をとる。

20歳になって、本当に色々な人に出会って、少しは大人になれた気がしている。

気分は毎日変わるし、泣いたり怒ったりする日もあるけれど、前を向いていこうと思う。

 

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1月 ② 太陽のなかで愛されたら

変わろうと思って変われるなら、もうとっくに私は想像のむこうへ行けているはずなのだった。

 

また感情がぐちゃぐちゃになって、好きな人にあたってしまった。

やさしくやさしくしたいのに、こんなにやさしくやさしくしてくれるのに。

休めって言われたけど、休みたくないって言った。今の、私の、逃げる場所だったから。

 

「結局逃げてるんです」

「そうだなあ」

 

ぜんぶ分かっていて、私の方を見てくれるのだった。

俺は見捨てないよ、見捨てたことなんかない、気まずいと思う必要はなんにもない、と言ってくれた。

きみの元気がないと俺もテンション下がるから、頼りにしてるせいでそうなるから、元気でいて、と言われた。

 

 

どんな地獄を見てきた?

どれだけ人を傷つけたり、傷つけられたりした?

 

 

私はもっと正直な人間になって、あなたと向き合いたいです。

 

 

 

 

 

 

1月 ① I will say goodbye to you

1月も半分過ぎた。

冬休みは1週間くらい実家に帰れて嬉しかった。お母さんもお父さんもお兄ちゃんも妹も、ちゃんと生きていた。

チーズタッカルビをみんなで食べた。お家で。家族5人で食卓を囲むなんてどれくらいぶりだろう。両親の仲があまり良くないから、すごく珍しいこと。

2年ぶりくらいに、高校時代の友人とも会えた。社会人の友人が多いから、素直にすごいなと思う。私は社会にちゃんと出られるだろうか。頑張りたいけど。

 

初対面の人に、自分の夢を話した。「明確で良いね」と言ってくれて、嬉しかった。明確なだけ。それだけ。

でも、私は好きなことしか、興味のあることしか、ちゃんとできないと思うから。それだけで、生きていこうと思った。多くの人とちがっても。