5月 ② 朝のひかり
3月のライオンを観た。人は、ずっと後になって思いがけないところから救われる瞬間がある。というような台詞があって、心に沁みた。
私は今、いろんな人と出会って話して、過去の自分に優しくしている最中なのだと思う。
東京に帰って街を歩くと、男の人が声をかけてくる。私は、その人の心が知りたいって思う。どんな風に生きてきたの。なにか悲しいことはあった?嬉しいことはあった?好きなものは最後まで取っておくタイプですか。私のどんなところが良いと感じるのかを教えて。私はあなたの心を通して自分のことを分かりたい。
誰にも言えなかった真っ黒な気持ちを話せたことより、可愛いって言われたことより、抱きしめられたことより、セックスしたことより、ほっぺたをぎゅーってされたことが、帰りの電車で手を引いてくれたことが、いちばん嬉しかった。なんて変かな。
5月 ① 必然のように別れて
ゴールデンウィーク。ずっと友達と過ごした。うどんを手作りしたり、スパゲッティをたくさん茹でて色んな味付けをしてみたり、酸辣湯麺を食べに行ったりした。バーベキューでマシュマロも焼いた。食べてばっかり。久しぶりに朝まで遊んで、たのしかった。
私は、ひとりでいる時間も、誰かと過ごす時間も、どっちも好き。
そういうことが多い。どちらかを選べない。
遠くで社会人をしている大好きな先輩が来てくれて、少しだけお話しできた。白黒はっきりつけなくていいんだよ、若いんだからすぐ決める必要なんてないし、味見だっていいじゃないかって言ってくれた。大人っぽくなったって褒められて嬉しかった。どこかの歯車が違えば、この人のことを好きになっていただろうなと思った。
今日は夕方に強い雨が降って、しばらくして止んだ。落ちかけの太陽に照らされて、草も花もぴかぴかしていた。たんぽぽの綿毛が生えていて、春が過ぎようとしていることに気がついた。
写真なんて昔はだいっきらいだったけれど、今はちゃんと写れる。
4月 ③ 月くらいなら迎えに行ったのに
大学の、奥の奥の方の滅多に人が来ないようなところに、小さなソファがある。1年生の頃、私はそこで缶コーヒーを飲むのが好きで、となりでは好きな先輩が煙草を吸っていた。あれから2年が経って、おんなじ場所で、今度は私がひとりで煙草を吸っている。あんまりおいしくない。おまもりみたいに、大事に息を吸う。
源氏名でいるとき、ずっと嘘をついてるみたいな気がしていた。けれど、ちがうのかもって、こころもちゃんと伝わっているのかもって思えるようになった。自分の中にたくさんの顔をもった私がいることを、いつか、ちゃんと認めてあげたい。もうすこしかな。結婚式場でも働き始めたの。だれかの幸せそうな姿を見るのが好き。
私のこと、見てれば誰と恋をしてどんな風に離れたか分かりますよ、ってひとつ年下の男の子に言われた。分かりやすいからって。肩にふれる体温がやけに熱かった。
最近の毎日はおだやかで、勉強がたのしくて、こういうのを充実って言うのかなって思う。
4月 ② C7おさえるあなたの指
友だちといるときの私、お客さんと話すときの私、好きな人といるときの私、セックスしてるときの私。
どこにも私がいない気がしてる。
はだかになったときすら欲望に忠実に生きられない私は嘘つきだと思う。
ほんとはきれいなんかじゃないのに。
なにが怖いんだろう。
なんでこんなに満たされないんだろう。
4月 ① あなたのすべてを信じてる
足音がして、寝たふりをしたらパパが布団を掛けてくれた。
お母さんが淹れてくれたお茶を飲みながら、東京でしか放送していない深夜番組を見た。
あと何日かしたら、また一人の部屋に帰る。
大学生活も折り返し。
また泣いちゃう日もあるだろうけれど、向き合った分だけなにかが返ってくると思う。
繰り返しの毎日だと、忘れちゃうこともあるから、何度も決心する。
3月 ② きっといつかの話だけNGよ
20歳になりました。
私は、13歳くらいからの数年間、毎日くるしくてくるしくて、死んでしまおうと思った日も沢山あったけれど、今は毎日たのしくて、あのとき死ぬことを選ばなくてよかったって心の底から思う。
これからも、出会った人と素敵な時間を過ごしていきたいです。
がんばります。
2月 ⑤ 国道とばさないでいてね
少し前まで好きだった男の子と、バイト先から一緒に帰った。地獄かと思った。十分間。
ふたりでオリオン座を見に行ったのに。ふたりで深夜までたくさんお話ししたのに。ちゅーもしたのに。私の手を握ってコートのポケットに入れてくれたのに。ふたりで食べたファミマのおでん、あんなに美味しかったのに。彼の淹れてくれたコーヒーはお花畑みたいな味がした。
コンビニの前を通って、買い物して行くからって逃げるみたいに言った彼に、笑ってばいばーいって言ったけど、ばかだと思われたかな。
私は今月でバイトを辞めるから、彼と並んで歩くのは生涯最後だと思った。風が冷たくて、欠伸をしたら涙がでた。